「ルールがない会社は、トラブルが起きるまでルールを作らない」という言葉があります。小規模なうちは口約束や慣例で物事が回っているように見えますが、従業員が増え、取引規模が拡大するにつれて、明文化されたルールの重要性が増します。
会社には大きく分けて3種類のルール文書があります。定款・就業規則・各種社内規程です。それぞれの役割を理解し、適切なタイミングで整備することが、健全な法人運営の土台となります。
定款:会社の憲法
定款とは何か
定款は会社の根本規則を定めた文書で、会社の「憲法」とも呼ばれます。株式会社の場合、設立時に作成し、公証役場での認証を受ける必要があります。定款に記載する事項は、絶対的記載事項・相対的記載事項・任意的記載事項に分類されます。
絶対的記載事項は、目的(事業内容)・商号(会社名)・本店所在地・設立に際して出資される財産の価額・発起人の氏名などが含まれます。これらは必ず記載しなければ定款が無効となります。
定款変更の手続き
定款の変更は株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上)が必要です。事業目的を追加・変更する場合、商号を変えたい場合、本店を移転する場合なども定款変更が必要となります。
設立時に慌てて作成した定款には、後から見直したい事項が出てくることがあります。事業の拡張に備えて幅広い事業目的を記載しておくこと、将来の機関設計の変更に対応できる内容にしておくことが重要です。
就業規則:従業員との約束
就業規則の位置づけ
就業規則は、労働条件や職場のルールを定めた文書です。常時10名以上の従業員を雇用する事業場では、作成・届出が法律上の義務となっています。10名未満の会社でも、就業規則を整備することで労使トラブルを未然に防ぐ効果があります。
就業規則は単なる形式的な文書ではありません。従業員が入社した際に就業規則の内容が示されることで、会社と従業員の間の「ルールブック」として機能します。曖昧な部分があれば従業員に有利に解釈されることが多いため、明確な記載が重要です。
就業規則に記載すべき事項
就業規則には、始業・終業の時刻・休憩時間・休日・休暇・賃金の決定と支払方法・退職に関する事項を必ず記載しなければなりません(絶対的必要記載事項)。
また、退職手当・賞与・安全衛生・教育訓練・災害補償・表彰・制裁(懲戒)に関する事項も、定めを設ける場合は必ず記載する必要があります(相対的必要記載事項)。特に懲戒処分の根拠規定は、問題社員への対応時に重要な役割を果たします。
社内規程:業務運営の細則
社内規程の種類
就業規則だけでは会社の全てのルールをカバーすることはできません。就業規則を補完・具体化するために、様々な社内規程を整備します。主な社内規程には以下のようなものがあります。
・経費精算規程(交通費・接待費・備品購入のルール)
・情報セキュリティポリシー(データ管理・SNS利用のルール)
・ハラスメント防止規程(相談窓口・対応手順)
・慶弔見舞金規程(冠婚葬祭の見舞金額)
・出張旅費規程(出張時の宿泊費・日当の基準)
・育児・介護休業規程(法定を上回る部分の独自ルール)
規程整備の優先順位
全ての規程を一度に整備することは現実的ではありません。会社の規模・業種・現在抱えているリスクに応じて、優先順位をつけて整備することをお勧めします。
まず優先すべきは、就業規則と経費精算規程です。就業規則は労働トラブルを防ぐ最重要書類であり、経費精算規程は横領・不正の防止と税務調査対応の両面で重要です。その後、情報セキュリティポリシーやハラスメント防止規程を整備していくのが一般的な順序です。
ルール整備における注意点
形式より実態を重視する
よくある失敗は、「とりあえず就業規則のひな形をそのまま使う」ことです。インターネットで無料のひな形を入手して最低限の変更しか加えなかった場合、自社の実態と合わない部分が生じます。実態と乖離した就業規則は、かえってトラブルの原因となることがあります。
就業規則は自社の労働条件・働き方・業種の特性に合わせてカスタマイズすることが重要です。特に休日・休暇・給与体系・残業代の計算方法は、自社の実態に正確に合わせる必要があります。
定期的な見直しを行う
労働関連法は頻繁に改正されます。就業規則・社内規程も、法改正に合わせて定期的に見直すことが必要です。特に近年は、育児・介護休業法・パワハラ防止法・同一労働同一賃金・時間外労働の上限規制など、重要な法改正が相次いでいます。
毎年1回、専門家(社会保険労務士)と一緒に就業規則・社内規程を見直すことをお勧めします。古い規程を放置していると、法律違反の状態が続くリスクがあります。
まつうら総研の視点
まつうら総研では、会社のルール整備は「コストではなく投資」と考えています。整備にかかる手間と費用は一時的ですが、適切なルールが機能することで、トラブル防止・従業員の安心感・採用時のアピール・取引先からの信頼向上という長期的なメリットが生まれます。
「うちはまだ小さい会社だから」という理由でルール整備を後回しにすることは、リスクを積み上げることになります。会社が成長する前に基盤を整えることが、持続的な経営の鍵です。ルール整備に関するご相談は、ぜひまつうら総研にお気軽にお問い合わせください。